私が小学校4年生くらいのことだったか、居間のこたつで父が話してくれたことがある。それが私の半生に大きな影響を与えた、と思われる。
私の父は、優秀な子どもだったらしいが家が貧しく小学校を出ると、東京に丁稚奉公に出され、それから、たった一人で会社を興すまでになった。
その丁稚時代の話である。
私の父は兵隊検査にも落ちたくらい身長が小さく、丁稚奉公時代、先輩方と大部屋で共同生活をしていたが、朝起きて布団をたたみ押し入れにしまう時、遅くなると高く積まれて、しまうことができない。それで1番に起きてさっさとしまうようにしていた、と言う話だ。
小さくて弱いものは、誰よりも先んじて工夫して行かなくては生き残れない、体で学んだ知恵である。これは私が父から学んだ一番大きな事でありずっと私の中で生き続けていると思う。
7年前に父は85才で亡くなったが、70を過ぎてから独学でワープロを覚え、5年後には分厚い自伝小説を自費出版した。タイトルは「月と仏と」 しかし、実際は 20年以上前に新聞に同じ小説を連載していて、その原稿を子どもたちに読み聞かせていたのだった。読んでは「どうだ」と聞き、面白いと私たちが言うと喜んでいた。
もう1つ、丁稚時代の話として覚えているのは、貯金の仕方だ。普通の人は、給料をもらい1ヶ月たってその余りがあったとしても何も考えずそのまま合算して使っていく。父はそう言うことはしなかった。無理して余分な貯金はしないが、余ったお金はたとえわずかのものであっても、別会計として貯蓄に回したのだ。これをきちんきちんと毎月行う。口で言うのは簡単だが、これを長年続けるということは誰にでもできることではない。(私なんか絶対できない) 子どものために口座を作り、毎月貯めていってくれた記録が、預金通帳として残っているが、それを見ると、実に632円とか細かくしかし延々と記載されている。驚くべき事だ。
父はお金を貯める方法は決して無理をしないこと、だが、自制心を持ってこつこつと無駄を省くことであると言っていた。・・これは真似できなかった(^^;)
子どもが親から何を学ぶか、そんなことは今の時代、あまり話題にもならないような気がする。大体親からして伝えるべきものを持っていないように思う。それでも何も問題ない社会になっているのは進歩というのだろうか、実はつまらない情けない事だ。
コメント