帯状疱疹という病気になって約3週間、だいぶ治まってはいるがまだ痛くて日常生活を普通に行える状態でない。この間、沢山の人から、私もなった、大変だったと言うような話を聞いた。中には、これは一生治らないぞ、とか、直ったと思っても必ず再発する、とか今痛んでいる人に言うべきでない言葉を投げかける人もいる。(^_^)しかし最初に行った診療所の医師は違った。
背中の傷を見て、「これは大変だ・・痛いでしょう・・よぉ我慢したなぁ・・」こんなにありがたい言葉はなかった。これからはどんどん治してあげようと言うことを意味している。
しかし、私のようなのはまだまだ軽い方で、歳をとればもっと重い病気、もっと辛い体験を今後することになるかもしれないと、悟った。
そして、更に、歴史上、もっとすごい人がいたのだ、と思い返さざるを得ない。それは、イエス・キリストである。
私はクリスチャンではない。中学の時キリスト教会に毎週通ったことがあり、聖書も読んだが、読みかじった程度だ。大学時代は哲学の本とともに仏教関係の本も随分読んだし勉強もしたが、いつも、心の中で否定できない魅力を聖書に感じていた。
昔読んだ、遠藤周作「聖書の中の女性たち」(昭和42年刊、講談社)が手に入ったら是非お読み下さい。この本はカラー写真の入った立派な装丁のものだが、その後文庫にもなった気がする。近頃は何でも「癒し」「癒やされるぅ」「癒やされたい」「癒し系」など軽々と使われている「癒し」という言葉だが、本来、そんな軽い、暑い日に冷たいもの飲んで気持ちよいときに癒やされるぅなどと使う言葉ではない。
(今の日本人が本を読むことも書くことも考えることもしなくなった結果、言葉に鈍感になり、間違った使い方をしても全く気がつかないのは仕方ないとしても、この「癒し」という言葉を全く軽く、気持ちよい、心地よい、優しい、位の意味で使うのは、実に嘆かわしい。)
もう手に入らないかもしれないので、この本の中の最初の所に出てくる、聖書の中のある売春婦の話を引用しておきます。後は図書館などで探してください。
「・・神殿の円柱の翳りを斜めに顔に受けてキリストは静かな声で何かを話していました。自分がこの町を訪れたのは幸福な人、満ち足りた人,富んだ人のためではない。長い夜、人生のつらさにおびえながら涙を流した人、子供を失った母親,家族からも友達からも見離された罪人・・そう言う人間たちのために彼はこの地上にやってきたのだと言うのです。
女はキリストのその声を聴いていると、ふと自分の幼年時代のことが心に浮かんできました。自分を金で買った養父に叩かれ,泣きながら夜を明かした日のこと。その養父に売られてある男の家で卑しい仕事を始めた日のこと・・・もうどうすることもできない。・・・ ・・
女は庭の片隅に忍び込んで、そっと中を覗こうとしました。「何をしているのだ」この家の下男が彼女を見とがめて声を掛けました。「お前の来るところではない」しかし女は聞こえないふりをしてキリストの後ろに近づきました。「でていかないと痛い目に遭わすぞ」荒々しく追いかけてきた下男たちの声にキリストは背後を振り返り、自分の前に悲しげに立っている女の顔を見ました。突然、女の顔から大粒の泪が溢れ、真珠の粒のように一滴一滴、彼の足をぬらしたのです。この熱い涙からキリストは女の悲しかった過去、惨めだった人生を理解したのです。
「安心するがいい」彼の唇から力強いその一言が洩れました。
これはルカ福音書第7章36節にある1人の売春婦の話ですが、この話の中で我々の心を打つのは、彼女の泪がイエスの足をぬらす部分でしょう。『御足、次第に泪にて濡れ』この一節だけで、僕たちはもうその売春婦の哀しみがじいんと肌に伝わってくる感じがする。・・・・・・
・・・・・・
聖書の描写はこのように実に簡潔で見事です。足を次第にぬらしていく泪、衣にそっと触れた指先・・他のものはもういらない。それだけで僕たちは彼女たちの人生を知ることができるではありませんか。僕たちは現実の生活でも本当に辛いときは大声を出して泣くことはない。本当に辛いとき、泪は静かに頬を伝わっていくものです。
聖書の中に出てくる女性の物語を一つ一つ注意して読んでいますと、その簡潔な一句、一句に、キリストに何かを訴えようとした彼女たちの歎きが本物であったことが我々の胸に伝わってくるのです。(彼女たちは実在したのです。)でなければ、マタイもマルコもこのような真に迫った描写はとてもできなかったはずです。・・・」
ご一読をお勧めします。
「安心するが良い」
この言葉は深く心に残っています。
遠藤作品は昔殆んど読みました。
ここで再び本の紹介が有って思い出しています。
苦しみ悲しみを共に感じてくれて一人じゃないよ私も同じ苦しみを一緒に感じているよというメッセージを受け取ってきました。
私が一番好きなのは「侍」でした。
帯状疱疹は痛みが強く大変辛いのですよね。3週間もよく頑張りましたよね。きっと、全快も間もないことでしょう。母も子供も罹り身近に苦しみを見てきました。 しっかり治療すると再発はグッと少ないと聞いています。 早く回復されますように祈っています。
投稿情報: こも | 2008-06-03 23:04
こもさん、 暖かいお言葉ありがとうございました。
ところで遠藤周作さんのファンなんですね。私ももう30年は読んでない気がしますが、エッセイを含め殆ど全て読みました。この「聖書の中の女性たち」は特別の思い入れで装丁し、読んで欲しいと本人が言っていた数少ない本だったと思います。「深い河」が最後で「侍」は読んでませんでしたが、今度読んでみます。「私の影法師」とか短編でも良いものがありますね。今度、色々と読み直してみましょう。
投稿情報: goshu | 2008-06-04 07:54
調子はいかがですか。
早く良くなりますように。そしてまた一緒に弾けますように(せかしているわけではありません(笑))。
僕も遠藤周作は大好きです。
『イエスの生涯』『キリストの誕生』は何度読み返したことか。
紹介していただいた本はまだ読んでいなかったのですが、図書館にあったので早速手に入れて読んで見ます。
投稿情報: たこすけ | 2008-06-04 10:52
たこすけさん こんばんは
病状は相変わらず、です。チェロは当分弾けそうもありません。遠藤文学のファンなんですね。嬉しいです。
投稿情報: goshu | 2008-06-04 22:58