私がチェロを始めたばかりの頃、これが弾けるようになったら満足と思っていたのは、カザルスの弾いたバッハの「アダージョ」、フルニエの弾いたフランクールのソナタ、などで、他の沢山の名曲には心惹かれることはなかった。
心惹かれるというのは、これが弾けるようになったら満足だ、ということで、良い曲が沢山あるのは知っている、「アルペジオーネ」は勿論素敵だし、シューマンの協奏曲も素晴らしい・・けれど、それはそういう風には弾けないだろうと言うことも含め心から本当に弾きたい曲ではない。
上の2曲は音楽的に良いというよりも、その演奏に感じられる人間的な力、心の姿勢などに魅力を感じるため・・だと思う。そういう曲を一生の間に弾いてみたいというのは、(弾くだけなら弾けるけど)、カザルスやフルニエの人間性に近づきたいと言うこと、その精神の気高さや深さの片鱗でも真似したいものだ。どんな曲を弾くかよりどんな風に弾くかが大切。
どんな仕事をするかより、どの様な人とどの様な関わりをするか影響を受けたり与えたりするかのプロセスの方が大事。天職と言うべきものを得られた人は幸せだがそうとばかりは限らない。それでも魂を売って仕方なく金のために働くのか、どの様な境遇であってもその人の存在の光と影、響きや香りで世界を豊かにするか。
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