先日NHKテレビで漆かき用のかんなを作っている日本最後の職人が取り上げられていた。最近、市の公募で跡継ぎ候補の青年が弟子入りした。が、ただ作業を見させるだけで何も言わない,教えない。その理由を親方は「言葉で教えると分かった気になってしまう」という。技は見て盗むもの、自分で関心を持ち、問いを持って、親方の作業の一部始終を神経を使ってみなければ、技が自分のものにならない、技を習得できないということだ。
近頃はマニュアルもあり、合理的で親切なメソッドもあり、チェロにしてもそのためか若くてテクニックのある人が次々と育っている。アマチュアにしたって、先生の教え方がどうの、ちゃんと教えてくれない、とか不満を持つ人もいるし、いろんなレッスン機会も増えていていろんな事を学べる。けれど、それは、「分かった気になる」だけ、あるいは、テクニック的に上達するだけで、肝心のことは伝わっていないかも。
物事を学ぶときに一番大切なことは,どれだけ深く問えるか,ということだ。何でも良いから上手くなるように教えてください,なんてことでは駄目。問いが深いほど答えも深い。正しくまっとうに問えると言うことはそれだけ真理に近い,大事なのは,答えではなくまっとうに問うことである,とは大学時代の恩師の教えである。本当の答えは人から教わるものではなく自分で見つけるものだからだ。
たとえば、弓の持ち方について悩んだ経験のない人はいないだろう。だから、幾度となく,プロの人にどうやって弓は持つのですかと質問する。殆どの答えは、「どうでも良い」「持つという考えがよくない」「死人のように」「好きなように」・・という感じで、ここをこうしてあぁしてなどと教えてはくれない。ま、黙ってみていれば,奏者によって指の形、位置,動きもそれぞれ違っている。聞いても中指が肝心だという人もいればすべての指が肝心だ,曲げろ曲げるな,しっかり持て持つな・・色々だ(^_^) だからそもそも、弓がどうしたではなく、自分がどんな音を求めるのかということがもっと追求されなくてはいけない。・・しかし、もうちょっと何とかならないか・・何ともならないのだ。これは自分の問題である、他人と比較しても仕方ない、教わることはできない。大切なのは,常に探求し続けること、問い続けること。
私がいつもお世話になっているチェリストのSさんは、芸は盗めの典型だ(^_^) ご本人もそうしているようだし(プロからだけではなくアマチュアからも得るものがあるらしい。どれだけ幅広い感性をもっているのだろう。),一緒に演奏させていただくときは,盗めるようにわかりやすく演奏してくださるようだ。1つのテクニックがどうだというより,本来それは総合的なものなので,たとえば、良い音程で良い音で,と言うとき、問題は呼吸であったりする。それは、演奏全体を見て感じなくては分からない。S さんは個人レッスンをしないし、レッスンということ自体が好きではないらしい。だから、なるべく一緒に演奏するなどして盗まなくちゃいけない。S さんの印象的な言葉。(チェロアンサンブルの本番直前の練習で)「チェロを弾くんじゃない,音程なんかどうでも良い、音楽するんだ!」
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