昨年6月、急逝されたバイオリニストの若林暢先生の追悼番組「魂のバイオリニスト 若林暢が残したもの」が、今月19日の深夜1時から2時間半にわたり、ラジオ日本で放送されます。実はこの連絡をしてくださった方に、先生の出演された昔のNHKの音源があると申し出たところすぐに電話を頂き、色々な話を聞かせていただきました。
数年前、何年か連続で、年末と夏休みに3泊4日のバイオリン合宿がうちであり、親しくさせていただき、コンサートにも何回か行かせていただきました。音楽事務所とのお付き合いはなく、ファンクラブがマネジメントしているようでしたが、いつも満員で、熱心な聴衆に囲まれていました。
ペンションでの合宿は、他では類を見ないユニークというか激しいもので、先生は朝から真夜中過ぎまでホールに陣取って、食事もそこに運んで、休むまもなくレッスンをしていました。主に芸大の学生や高校生が主でしたが、レッスンは厳しいらしく、びくびくしているようでした。でも、突然車で猛スピードでどこかに出かけたかと思うと大量のケーキを生徒のために買ってきたりで、生徒達に慕われているようでした。
ある時、生徒の一人に、先生のレッスンは厳しいの?と尋ねると、「厳しいです。」どういう所を一番気を付けるように言われるの?「音楽を楽しんでいない時です」・・どういうこと?「素晴らしい作曲家が素晴らしい作品を残してくれて、それを演奏出来ることはどんなに素晴らしいことか、世の中には沢山の人がいて、色んな問題もあるのに、今バイオリンを弾けていられるだけでもありがたい事、それなのに、それを感じないで、気のない演奏をするような時、烈火のごとく叱られます。」
順番にレッスンを受けるのだが、行ったかと思ったら戻ってくる生徒がいるので、どうしたの?と聞いたら、「音程が悪くてレッスンにならないから、1時間スケールを弾いてくるように言われました・・」とか、色んな事を思い出す。
先生の死因は癌。けれど誰にもそのことを伝えず何もないかのように凜とした姿勢を崩さず突然亡くなったので、皆びっくりしたらしい。先生は1度死んだ。が、まだ、録音がありそれを聴く人がいる限り、まだ、完全には死んでいない。誰も聴く人がいなくなったらそれが2度目の死。だから、音楽財団を設立しその音楽を残して行くことになった、とのこと。協力を依頼されたので、出来る事があればお手伝いしたい。
ロンドンでブラームスのソナタの録音をしたものがCDになっているが(もう1枚、アメリカの現代作曲家アイブスの作品集のCDがある)、レーベルが倒産したため廃盤となっている。しかし、ブラームスファンならずとも、その隅々まで情感に溢れキュンと心に届く、あまりに名演なので、今度はSONYが扱うことになったらしい。その他、ライブ録音のものや、小品集や、ジュリアードで英語で出した博士論文「音楽における悪魔」の和訳も出版される予定とか。Webサイトも立ち上げ、私の提案したラジオ番組なども聴けるようにしたいとのこと。
この仕事のおかげで普段接することなど思いもよらない様々な分野の一流の方々と知り合い、親しくさせていただき、その日常の一部をも垣間見させていただき、私たち夫婦は幸せだと思う。このことをより多くの方に何らかの形で伝えたい、つないでいきたいと思う。
なお、これまでブログで若林先生に関連した記事は、右側の検索欄に「若林暢」と入力すれば、見ることが出来ます。
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