原口摩純:「ウィンナ・ピアノ」
私が大学生1年の頃、毎日聴いていたのはフルトベングラー指揮のブラームスの交響曲第1番だった。パイオニアの16cmスピーカーを菓子箱に入れて、友人に作ってもらったモノラルアンプで聴いていた。来る日も来る日も飽きる事なく聴き続けているとある時大変苦しい思いをするようになってきた。素晴らしい曲だと思うが、どうも、これは嘘だという気がしてきてその疑念が去らない。
後から、知ったのだが、哲学者ニーチェは同世代人としてワーグナーを礼賛するのだが、それと比較して、このブラームスの交響曲を糞味噌にけなしているのだ。ブラームスは反論しなかったが、おそらく誰よりも問題を感じていたに違いない。
晩年、ブラームスはピアノ小品しか書かなくなった。そして、その慈しむように書かれたピアノ小品集は、それまでの沢山の曲に勝るとも劣らない真実のこもった名曲であるように思う。とはいえ、名演奏がどれかと探すとなかなか難しい。
たまたま人からもらったCDでこのピアニストの演奏を耳にして、ベーゼンドルファーインペリアルというものものしいピアノの魅力と相まって、何よりそのテンポが良い。このCDにはブラームスは「6つのピアノ小品集」から、A-DURの間奏曲 OP118-2 だけが収録されているが、この演奏がすばらしい。ブラームスがピアノを愛しその音の響きの微妙な重なり余韻をどれだけ慈しんで沈潜したかが分かる気がする、もちろん録音も素晴らしい。ピアノを弾くブラームスの傍らで個人的に聴かせてもらっている感じ。できれば、このピアノで、作品117の3つの間奏曲も録音してもらいたい。ともかく、ブラームスを愛する人ならこの1曲の為に購入しても惜しくないだろう。
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