今回の国際チェロコングレスの重鎮の1人、バーナード・グリーンハウスさんは、ボザールトリオのメンバーで、カザルスの一番弟子とも言えるチェリスト。今回最も感銘を受けた1人。
どんな人かはここを見て下さい
コングレスの日程は、大変詰まっていて、休憩時間というものもほとんどなく、次から次とメニューが続く。昼食の時間といっても正味50分ほど。ある時、会場のすぐ横にあるランチバイキングのレストランで食事をとった。たくさんのお客さんがいる割りには、給仕の女性が2人しかいなくて、テーブルの片づけが間に合わない。テーブルは空いているのに、片づけができないから、行列ができている。やっと自分の番が来て何品か皿に乗せて席に着いた。ふと、入り口を見ると、長い列の中にグリーンハウスさんと通訳の若い女性がいた。80過ぎの高齢のマエストロは何も言わずに並んでいる。そして席に着く頃、他の席にいたチェロ指導者が気がついて寄ってきた。マエストロはサンドイッチが食べたいということらしいが、このレストランにはそういうものがない。それで、何とか手配されたパンにジャムをつけて食べていた。何も文句を言わない。何しろスタッフ不足でボランティアに頼って運営しているから、これも仕方ないのかもしれないが、なんだかなぁ。
別のあるチェリストは、あっちこっちでスタッフに何事か言っていて、コンサートを聞くため並んでいる人をすり抜けて(割り込み)中に入ったりしていた。そんな人とは、マエストロは違う。
アマチュアの指導をするチェロクリニックの時間。グリーンハウスさんのレッスンを見に行った。簡単な練習曲を弾いた初老のYさんに対して、まじめに指導していた。弓の真ん中の部分だけを使って、アップダウンを繰り返す。その時、ヒジから先しか動かさない、肩は動かさない。この弾き方は、弓の元や先ではできない。これがデタッシュ、と言って、何回かやらせてもすぐにはできず、肩が動いてしまう。しばらくこればかりやっていたら、そのうち、安定して弾けるようになって、グリーンハウスさんは、「そうそう!」と嬉しそうでした。そうしたら、ふんふんとばかりYさんがデタッシュを弾き続けて、話ながらいつまでもやめないので、グリーンハウスさんが「ずっと弾いてますか?」とかなんとかいったような・・・これはおかしかったけど、グリーンハウスさんは、大まじめで、長老格の人が熱心にこんな基礎を本当に大事なことのように教えている姿をみて、私は感動したのです。姿形も、その表情・目つきも、そのまじめさもその弾き方もカザルスそっくりだと思いました。カザルスのレッスンに立ち会っているような気がしました。
練習とはこうあるべき見本だと思いました。一生の間にどんな曲が弾けるようになるのか分かったもんじゃないけど、いい加減に弾き散らかさないで、その過程をきちんと確かに歩いていることがとっても重要だとつくづく思いました。素晴らしいレッスンだと思いました。これがカザルスのいわゆる「謙譲のレッスン」なのかもしれません。
このレッスンの後、シューマンのチェロ協奏曲を弾いたアマチュアにも見本を示しながら熱心に指導。音楽には変化が必要だ、それがなければアーティストではない・・・体全体を使って演奏するように・・・その音楽はカザルスそっくりでした。
終わった後、聴講者全員から熱烈な拍手がいつまでも続きました。何度も何度もお辞儀をしても拍手はしばらく鳴り止みませんでした。もっと、ゆっくりもっと長くレッスンを見ていたいと皆が思ったのでしょう。私はすべてのレッスンに参加しましたが、今回のレッスンの中で、これほど聞いていた人を感動させた人はいませんでした。フレンドリーで、暖かみがあり、まじめで熱心、そして音楽の大事なところを分かりやすく熱のこもった見本を示しながら指導していました。高齢であるにもかかわらず、気合いの入ったチェロで、その人柄とともに大きな感銘を与えました。
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