3年前、チェロの基礎に戻ってウエルナー、ドッツァウアー、シュレーダーなどを練習し始めて、わかったことは、私の状態を含め初級者の練習というのは、耳を作ることにあると言うこと。右手がどうの左手がどうのと言うことは表面上のことで、練習を進めていく原動力になっているのは、音を聞き分ける耳、その能力を高めることが練習の成果だと言うこと。
出したい音がどんな質で、どの高さの音なのかわかっていなければそもそも音程をとることもできないし、もちろん良い響きも得られない。わかっていなくてもピアノは弾けるけれど弦楽器は音は自分で作るものだから、そこが難しい。指が広がらないとか、なんとかいうことも難しいけれど、それより、出す音がわからないと言うことの方が難しい問題だ。
このことをわかりやすく理解するには間違った方法を指摘する方が良いかも。たとえば、調弦。これも難しいもので、習い始めて半年以上はかかる技術だ。これをチューナーで合わせる人がいる。これは間違いである。チューナーで合わせろなんて言う先生もいるようだが,間違いだと思う。小さい頃から楽器をやりソルフェージの訓練をしてきた子供ならいざ知らず、大人になって楽器を始めた多くの人にとって、音をとると言うことからしてとんでもなく難しいことなのだから。それは訓練しなくてはいけない。チューナーを使えば半年の苦労を省略できるかもしれないが、苦労しなければ耳は作られない。目的は結果として音を合わせることではなく、調弦のできる耳、純正調を聞き分ける耳を作ることなのに、それができない。正しくは音叉を使って音を覚え、それを楽器を鳴らして同じ音にする事。最初のAをとったら、チューナーではなく、自分の耳で、完全5度の響きをわかるまで聴いて合わせること。なかなかできないことかもしれないが、それを省略するのでは何を練習しているのか分からないし、もったいない。この調弦は、練習前の面倒なことではなく、これこそが練習の基本だと思う。
手や指を早く動かすことが練習だと思う人が多いけれど、ワイアットアープの早撃ちの極意は「正確に当てること」というのを肝に銘ずべき。拳銃で的に当たったかどうかは的が倒れるから目で見て分かる。正しい音が出せたか頭の中で鳴った音と同じか、さらに美しい響きになったかどうか、自分の耳で判定しているのである。これは難しいことだ。音叉で調弦するというのはまさにこのことの基本である。そこで、完全に美しい響きがどういうものかを体で覚えるのである。それが的に当たったかどうかを判定する基準となる。開放弦でできないことを指が入って音を作るとなったらさらに難しい。
当たり前のことを偉そうに言っているような気もしてくるけれど、そういうことはこれまで気がつかなかった事だ。だから、音階練習、半音階練習などでも大変ゆっくりやることの意味は、指のストレッチ、耳に正しい音をたたき込む。と言うことなのだ。正しい音は正しい明快な響きを持っている,ある程度その響きだけで音程が正しいかどうか分かる。合ってる合ってる,ではなく本当にあっているのかと時々丁寧にチェックする必要がある。音が合っていないと次々と様々な弊害が生じてくるのだが、以下省略。
人間の判断力を正しく導く方法はただ1つ。小さい頃から正しいことを体で覚えることだ。自分の基準を正しく持つことである。音楽では正しい美しい音を覚えること。そうしたら比較するまでもなく絶対的に正しいものが分かる。大人になって始めた人は、まさにそれを自分で作らなくてはいけないのだから大変だ。と言っても難しいことではなく、ただ、丁寧に練習することにつきる。子供と違って格段の理解力があるのだから,後は問題は素直さだけ(^^)
練習とは自分の耳を音楽的に作ること、と分かったら、急いでいい加減に弾き散らかして自分の耳を駄目にしようとは思わない。今、弾けなくてもゆっくりやればよいと言うことも分かる。と言っても普段はこのことを忘れて,指のテクニックだけに埋没しがち。時々は、練習とは自分の耳を作ることなのだ、と思い出したい。
goshuさま、「自分の耳を作ること」とは私が先生から言われた「自分の音をききなさい」に通じる事ですね?
自分の今出している音を過大評価も過小評価もせず有りの儘に聴ける事、そして自分の内にある出したい音に近づけようとする努力、自分の基準作り、そんな練習がやっと去年あたりから出来つつあります。
随分回り道してやっとたどり着いた気がしますが、見守ってご指導くださった先生方に感謝です。
投稿情報: 童夢の妻 | 2008-03-23 13:54
先生の言われたことと私の思いつきとは別物かもしれません(^^;) 私のは、自分でそう感じると言うだけで、他人にとやかく言うものではありません。・・・あ、とやかく言ってるかも(^^;)
投稿情報: goshu | 2008-03-23 18:13
こんばんは
この内容は私もまさに同意です。
私の学生時代にはチューナーは大きなオシロスコープみたいのしかありませんでいたが今は数千円でポケットに入るのが買えるんですね。でも私も調弦がまず音程を作る基本だと思っていますから音叉と完全五度で毎回合わせています。初めのうちは調弦だけで10~20分はかかりました。五度がピッタリあった時の地響きするような鳴り方は楽器のクオリティを一段高めるようです。もちろん大切なのは自分の耳も鍛えられてくることができることですね。
チューナーが必要かなと思うのはオケの中で周りがいろいろな音が出ている環境であわせなければならないときだけです。
投稿情報: ダンベルドア | 2008-03-23 23:02
ダンベルドアさん こんばんは
ベテランのダンベルドアさんが同意されるなら、結構これも正しいことかも(^^)
練習のはじめは指のストレッチをしますし、音楽をやるための耳の状態を整えるために調弦は大事ですよね。
ところが、しばしば不愉快な調弦をする人がいますね。大きな音で弓をぎゃーぎゃーせわしなく動かす・・こんなんで調弦できるわけないのに、せっかちできっとちゃんと合わせるのが面倒なんでしょう。音楽のはじめは静かに耳を澄まして、集中しなくちゃ。
投稿情報: goshu | 2008-03-23 23:36
ケラスのコンサートにいった人の話をどこかで読みましたが、
調弦する音があまりに美しくて、おもわず会場から拍手が出た、ということがあったらしいです。
かなり印象的な話でした。
投稿情報: たこすけ | 2008-03-24 10:23
夫が始めたチェロについて知りたくて時々お邪魔しているのですが、弦楽器の音作りというのは初めから4人のお友達としている様ですね。私はフルートなのですが、音作り(耳作り)は孤独です。その点はうらやましいです。
投稿情報: 童夢の妻 | 2008-03-24 10:51