チェロ曲の中でもかなり有名。フォーレの歌曲のカザルスによるチェロ編曲版。沢山のチェリストがレパートリーに入れている。中でも(私にとって)別格の演奏は、トルトゥリエ。
トルトゥリエの実際の演奏を聴いたのは、今から約35年前。1974年頃。たぶんトルトゥリエの2回目の来日ではないだろうか。来日記念とかで岩崎淑さんのピアノによる日本での録音(白鳥その他小品集)のレコードが出た。(その解説は倉田澄子さんが書いたものだが、日本でのトルトゥリエの滞在の様子が書かれていて大変興味深かった)北海道から聴きに来たのだったが、お金もないし、東京文化会館のかなり上の席だったと思う。豆粒ほどにしか見えないような場所でチェロの音が聞こえるんだろうかと心配になったほどである。プログラムはブラームスのソナタ第2番だったと思う。まだ、チェロの曲になじみがなく、良く覚えていない。自作の曲も解説付きで演奏したように思う。
が、それよりアンコールがすごかった。5、6曲は演奏したと思うが、その時弾いた「夢の後に」は圧巻だった。何がすごいって、この遥か彼方の大ホールの末席に、トルトゥリエのあのピンと張りつめたチェロの音が一直線に飛び込んで来たのだ。それはまるで、私一人のために弾いているかのように、一対一で直接届いたのだった。その感動を忘れることはない。ステージの上で弾くチェロの音が少しも減衰しないで、明瞭につややかに聴こえて来た。これには本当に驚いた。
「夢の後に」はアマチュアでも弾けるし、多くの演奏家がそれぞれに弾いているポピュラーな曲だ。2回の繰り返しの中でロマンチックにあるいはちょっと感傷的に、音色やビブラートの工夫をしたり技を見せたり、弱くも柔らかくもどんな風にも弾ける、斜に構えたような演奏もよく聴く・・人間性が如実に表れる一種のラブソングと言えなくもない。それにしても、トルトゥリエの演奏は独特だ。背筋をピンと伸ばした、筋の通ったノーブルな響き、初々しい青年のようにピュアな一途な気持ちと言ったら良いのだろうか、この音楽をただ一言で言うとしたら、pureと言うことに尽きる。日本での録音の際、この曲を弾きながら、トルトゥリエは大粒の涙を流しながら「なんて美しい曲なんだろう」と言ったそうだ。
大分たってからトルトゥリエの高弟である倉田澄子さんとお近づきになる事が出来て、この話をした所、別に不思議なことではないかのように、トルトゥリエはそういう研究をしてもいたとのこと。例の曲がったエンドピンは、大ホールの最上階の聴衆に音を直接届けたいと願った結果だそうだ。ロストロポービッチも演奏会場でその効果を実際に聴かせてもらって自分でも採用することにしたという話だ。
勿論新商品?の開発をしたのがすごいのではなく、その願い、志が貴重なのである。
このレコードは1993年にCD化されたが、その後廃盤になり、今では入手が難しいようだ。私もレコードを持っているからと買わずにいたら、いつの間にか手に入れられなくなった(^^;; まぁCDが普及したのは良いが、昔の名演が聴けなくなるのは辛い。それは、かつてステレオ録音が普及したときも同じことが起きた。録音がよくなっても演奏がよくなっていないんだから買うものがないと故佐藤良雄先生は言っていた(^^)
ちょうどこの文化会館の演奏会、私は1階の前の方できいていました。
あんなに輝かしく通るチェロの音は他の人からは聴いたことがないです。楽屋にいってブラームスの楽譜に頂いたサインは以前の記事にアップしました。
この日の演奏はしばらくしてFMでエアチェックして良くきいていましたがオープンリールで今は聴けません。
投稿情報: ダンベルドア | 2009-07-16 20:20
ダンベルドアさん
あぁ、ご一緒だったとは(^^) あの音は独特ですね。真似しようとしても出来ませんでした(^^)
投稿情報: goshu | 2009-07-16 21:07
それから,その来日記念の録音はレコードではなく,たまたまみつけたミュージックカセットで持っています。多いときは8曲もアンコール曲を弾いたトルトゥリエの小品集はありそうでいてないんですね。
投稿情報: ダンベルドア | 2009-07-16 22:08
そうそう、たくさんの小品を残したフルニエとは違って、CDで聴ける小品は数少ないですね。レコードでは録音してCD化されなかったものとしては、アルペジオーネ、グリーグのソナタもありますね。小品のなかではフォーレの諸作品は(「夢の後に」は岩崎さんのピアノ版が)CDで残っていますが、ショパンの前奏曲とかドボルザークのロンドとか、とても好きなものがあるのですが、どうして・・と思います。
投稿情報: goshu | 2009-07-16 23:07