前回の続きである(^_^)
楽器の調整が必要と言われても、何をどう調整するのか、分からない、それに誰にみてもらえばいいのか・・と思う方も沢山いると思う。確かに、問題だ。
以下、私の調整の経過?である。
楽器を購入してから10年以上弦を取り替えたりする以外何もしたことがなかったが、山中湖に移住してしばらくして、富士北麓でハイレベルな音楽会を定期的に主催していたある東京の楽器店の店主が宣伝?にやってきたことがある。元はN響の団員だ。楽器をみてもらったら、今良い職人が店にいるので、是非1度調整したらどうか、ネックが下がっていてこれでは弾きにくいし(当人にしてみれば最初からこうなのだし弾きにくいとは思っていなかった)、調整したら見違えるようになる、と言われた。この職人については、他のチェリストからも腕が良いと聞いたことがあったので、しばらくしてから、店(目黒駅近くのS)を訪ねてみてもらった。楽器を調整して良くなるか、そんなことをしないで新しい楽器を買うのが良いのか、と迷ったが、愛着のあるこの楽器が良くなるならそうしたいと思って、思い切って依頼することにした。初心者用の楽器が買えるほどの経費がかかったが、表板を外し、ネックを差し替え、バスバーを交換して、オーバーホールして徹底的に補修してもらった。私の楽器は古い材で、補修の跡が数限りなくあり、ヒビやはがれも沢山あったようだ。薄くなりすぎている部分には、布をあてがったり、いろんな工夫をしたらしい。結果は、ハイポジションが断然弾きやすく(ネックが上がって駒が高くなって発音が楽に音も大きくなった。つまり駒にかかる圧力が以前より小さな力で強くなったのだろう。全般的にも張りのある音がするようになって大満足だった。調整の前後では、弦との相性も変わった。低弦のタングステンは以前はしゃりしゃり言って合わなかったが楽器の強度が上がったためか調整後はこれがベストとなった。(なお、その後、丈夫になったせいか、2つの駒を取り替える必要もなくなった)、この大手術の後、人間と同じで、新しい駒の調整のため、1週間後、2週間後、1ヶ月後、半年後に来るように言われて、通ったものだ。そして、弾きながら、駒を削ったりして、弾きやすいように、よりよい音になるように、調整してもらった。これが、調整の始めだ、なるほどこんなことするのかと新鮮だった。調整とは、楽器を健康な状態に保つことと、ついで音がよくなるようにすること、私が弾きやすいように、私の好みにあうように(低音を重視するか高音を重視するか、、など)駒の厚さや高さ、魂柱の位置などを決めることだ。駒の位置なども、原則的な寸法は(ストラドのコピーならそのように)決まっているが、決まったように実際に作られていない場合が多く、実際にその楽器が良くなるような位置を探さなければならない、1度見つかったら、印を付けるなりメジャーしてメモしておく。(ちなみに私の楽器の場合駒の位置はネックから402mmである。一般に言われるF字孔の刻みの位置とは違う)これは、絶対に正しい位置と言うことではなく、今後の調整・変更の基準点と言うことだ。音を決定する様々な変数は、弾き手の技量が変化したり音楽的要求が変わったりすればそれに応じて、動いていく可能性がある。
それぞれの楽器によりベストな状態は違うので、ベストな状態を探すのも調整の第一の仕事だし、その上で、その性能が最大に発揮され、かつ弾き手の都合に合わせていくのが調整というものだろう。その後も、(楽器は木製品であり常に変化しているから)年に1度は、健康診断を受けて、ベストな状態に保つ必要がある。私は、弓の毛替えを年に1度と決めていて何もなくてもその時楽器も持っていって1日預けてくることにしている。
どんな弦を使うのかも、いろいろだし、弦を変えたらそれに合わせて楽器の調整もしなくてはいけない場合もある。弦を変えただけで音がよくなるほど甘くない。こういう音が欲しい、と思っても、いっぺんにはできない、あまりに変数が多いから、1度に沢山の調整をすると何が何だか分からなくなる。楽器のベストと思われる位置決めを最初にしてから、すこしづつ1つづつ動かしていく、時間がかかる作業だ。私の楽器の駒は、6つめである。最初についていたのはベルギースタイルというものだったが、今は、フレンチスタイル。職人が変わる度に変わったと言うこともあるし、ネック調製をした後駒を必然的に変えたり、魂柱を正しい位置にリセットしたら駒を交換しなくてはならなくなったりしたので。
というか職人さんを変えるとその職人さんがこの楽器を理解するために1度リセットする必要があるのだと思う。(最初に大改造してから、後の職人さんにみてもらっても、楽器の状態は、特に調整を要する状態ではない、と最初に言われたが)まっさらな状態から調整を重ねて楽器を理解して行ってより良い調整ができるというのが本当だろう。別に前のものが悪いから取り替えるというわけではない。無駄でも2度手間でも、仕方ない。
職人も最初から数えて5人目である。最初は購入先、次はその紹介、それから、お店のすすめと人のすすめ、それから、ネットで調べて、思い切って某氏に数年みてもらったが遠かったのとコミュニケーションに問題?があり、現在は、音楽仲間でもあり著名なチェリストの調整も任されているM氏(家も近いし)。どんな職人さんと出会うかは、長く演奏活動をしていれば、評判も聞くし、そして関心があれば、自然に見つかるものだと思う。その前に調整の必要に気がつかなくては話は始まらない。コンピューターを習い始めた頃は、どのボタンを押せば良いのか、変なことをしたら壊すのではないかとびくびくものだったと思うが、慣れてくればそう簡単に壊れるものじゃないし、不具合もすぐ直せるものだと分かるようになる。楽器の調整も同じである。どんどんやってもらったら良い。案ずるより産むが易し。(表板を外して大改造するような場合は、良く選ばないと楽器の音が変わってしまったりするけれど、私の場合は運が良かった)
職人さんは、一生懸命楽器を良くしようと努力していただいた、どの方も立派である。で、今の楽器は、その集大成のようで、エンドピンはカーボン、テールピースは黒檀の削りだし、弦はパーマネント、を装備?更に、テールピースのコードも自分でカーボンの撚り線にした(普通のナイロン製のピースコードは7g位あるが、これは1gにも満たない。で、強度は鉄の3倍以上。これがよい)。つまりなるべく軽く軽くと調整しているし、弦は張りがあるが音色は柔らかくまんべんなく鳴るパーマネントがこの楽器に合っていると言う結論だ。
今は、親しい人なので、お互いに好き勝手なことを言い合っているので、腕のことは無視して、うまくないのは楽器のせいだから、何とかせい、という態度で(^^;) やっている。いろいろなことを教えてもらっているし、ちょっとした傷は自分で直したいので、補修用のニスも調整して分けてもらった。失敗したら直してあげるから、と言うことで。つい先月もペグ穴の調整(いったん埋めて穴を開け直す、その際、径を少しだけ細くして微調整しやすくした)をしてもらった。楽器は木製であり、少しづつへたったり変形したりするし、湿度の高い日本でははがれたり、気がつかなくても色々と変化するので、年に1度は定期点検しなければ駄目。理屈で考えたら調整が必要なことは自ずと分かるはず。これをしないというほうがおかしい。音にも楽器にも無頓着と言うこと。
私のお勧めは、年に1度、弓の毛替えの時に楽器も持って行って2,3日預けると言うこと。その場で毛替えして持ち帰る事もできるはずだが、その時ちょっとみて、と言うことでも良い場合があるが、ちゃんとみようと思えば、目の前ですぐ帰ろうとしている人がいてはおちおちみていられないだろう。そんな状態だと、周囲をたたいてはがれがないか、駒がまっすぐ立っているか位をみておしまいだろうと思う。(これくらいなら誰でもやっているだろう)預けておけば、もう少し詳しくみてもらえると思う。(他のことにもいえるが、自分の都合ではなく相手の立場に立って考えてみれば分かる。職人は誰より楽器が好きだ、おかしな状態は気になって仕方ないはずである。じっと目の前に置かれたら無視していられないはず(^_^))前にも、いつもはがれやすい肩の部分、膠を流し込んでで応急処置をしてもらうのだが、(本当は、何度も繰り返すと古い膠が残ってでこぼこになり接着してもすぐはがれる、と言っていた)、頼んでもいないのに時間があったからと、今回はいったんホルマリンで古い膠を洗って、それから改めて膠で接着しておいたとのこと。ついでに、ちょっとづつニスの薄い部分も補修してくれた(普段は頼んでもやってくれないのに(^_^))。そういうこともある。良い仕事の条件はお金と時間のことを言わないことだ、が、今回はただ(^_^)v
いっぺんにではなく、少しづつ私も楽器のこと、この楽器の特徴というか変なところなどを知るようになった。変だと言っても標準と違うという意味で、駄目だという意味ではない。楽器のことを弾き手も職人さんもよく知って長くつきあうこともまたチェロの楽しみを深めるものだと思う。知ることは愛することである。ただチェロの演奏だけでなくその周辺のことも含め、楽しみを深め、人との交流も深めるのもアマチュアの醍醐味?
そうそう、今、思い出したが、職人さんが何をどう調整するかは、弾き手が何を問題と感じているか楽器にどれだけ関心があるかに関係している。これは、医者の健康診断と似ている。患者の不全感や健康への関心がなければ差し迫った必要なこと以外やらないものである。そもそも何も問題を感じない、楽器を調整してもその違いが分からない、音にこだわりがないような人の楽器を苦労して調整しようとは思わないしできないのが普通。
下手なことは仕方ないが、愛情のない人に使われる楽器はかわいそうだ。
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