プロや上手な人の演奏するのを間近で見る機会があるとき、ついつい目が行くのは、ボーイングのこと。右手の小指の使い方、弦と弓の毛の辺り具合。特に毛の量やその当て方は、急所をスローモーションで見ているかのようでおもしろい。
弓を弦にぶつけない、と言うことはよく言われるけれど、すぐ横で見ていると、パンにバターナイフでピーナッツバターのような粘度の高いモノを塗りつけるような安定したゆっくりと粘る動きがある。金魚すくいの名人は、水に斜めに紙を入れる、決して直角にぶつけない。水の抵抗を少なく紙を破らないようにするためだ。弓の毛替えをしている職人の話では、男性は筋力が強いためか、弓の毛を良く切る。が女性は筋力が少ない分合理的に毛を使うため毛を切ることが少ないそうだ。ぶつける力が強ければ毛が切れやすくなる、これは金魚すくいと同じだ。よく、毛が切れると熱演しているかのように思うが、そういうことじゃない。いくら迫力があるように見えても紙が破れたら金魚はすくえない。
先日、大学4年生のほそ〜い腕をした女の子と同じパートを隣で弾いた。ボーイングを見ていると毛の当てる巾が半端じゃないし、その変化はゆっくりと粘る。太くて柔らかい音はこうやって出すのだ。思うにアマチュアの場合は変化が急で、指に毛の感触が伝わっていないように思える。
粘るボーイング、この習慣を身につけたいものだ。速く動かすときでも弾き始めの瞬間はぶつけるのではなく弓と毛のしなやかさを使えるようにしたい。指と毛がばらばらではなく毛の1本1本にまで神経が行き届くように、それができないから、アマチュアはppが弾けないのだろう。
もう1つ、小指の使い方については、N響のM氏のボーイングは倉田先生ばりに美しい。聞いたら、昔ボーイングのレッスンを受けた、勿論トルトゥリエ流のセブシックだが色んな奏法を取り入れている、とのこと。あのとき小指をこうそらしていましたけど、その方が力が入るからですか?と尋ねたらそれは全然意識していないとのこと。指がどんな風に動いているのか、私は、意識して小指を使おうと思っているが、プロの方々は、そういうことは自然におきていることで意識していないようだ。他のチェリストにも尋ねたことがあるが、皆小指のことは意識していないという。けれど見れば明らかに使っている。と言うか、自然に柔軟に必要に応じて動くように訓練されているのだ。アマチュアは小指を使うように研究して意識した方が良いと思う。決して棒のような硬い指ではない。ボーイングの際の小指の動きについては、YouTubeにナバラの詳細なレッスンがあり1時間半くらいにわたってずっとやっている。それを見ると分かる。しつこく基礎を繰り返して教え込む、その粘りにも感心するし、ありがたいことだからやらねば・・。ボーイングについては以前にも書いたモノ(コメントをお読みください)がある。更に、以前のプログ記事「小指に命を」
そして、小指の筋トレとして、丸く完全な円を描くように(手首は動かさない)動かす方法を教えてもらった。やってみると、速度を変えずに円運動をするのはほとんど不可能と思えるくらい難しい。普段鍛えていないから、がくっがくっと言う動きになる。学生にもセブシックのエチュードを教えてやりたいが、楽譜ありますか?(予備のコピーを差し上げた)けど、こういうことは求めていなければ教えられない、とも。話をしていると、様々なことを色んな角度から研究しておられるのが分かる。曲の演奏でも調性感が大事だと、同じ調の様々な曲をすぐに弾いてレッスンしているし、音程についても、転調した後のそのCは転調前のCとは違う、など細かな指導がある。半音と全音の関係にいつも気を配る、機械的に弾くのではない(といってもこれは私のようなへたっぴが聞いても仕方ない(^^;))
ついでだから、もう1つ、M氏に尋ねたのは左の小指の問題。私は長年の悪癖で、小指の第2関節が丸くたてられない。斉藤秀雄先生が「まむし」と命名したらしい、やってはいけない癖で直すのは難しい、と言う。ワンポイントアドバイス「それは、難しいけど、・・小指で弾かなければ良いんじゃないですか?」了解しましたぁ!
上手な人の奏法は見た目も美しい、たまにビデオでも見て音はともかく演奏する姿が美しいかどうかチェックするのも大事だと思う。これでも私は10年前に比べたら改善されたと思う。
(追記)左の小指の矯正について、禅問答のような事を書きましたが、私の理解では、小指で弾かない、と言う意味は、小指で弾くと思うと力が入って悪い癖でつぶれるから、むしろ、弾かないつもりで、左肘を前に出し気味に注意しながら薬指を添えて正しい形で弦に触るだけ、と言う風に少しづつ意識して、弾かない練習を心がければ、1,2年やっていれば直るかもしれない・・と思うのです。他にもいくつか悪い癖があったけれど意識して心がけていれば1年くらいでかなり修正できるモノです。それと、第1関節をそらして押さえる練習をチェロなしで、暇なときに思い立ったらやって、第2関節をたてていられるように指に覚えさせようと思います。トルトゥリエの教本の中で両方の指の第1関節をそらせるように拝む姿勢をとる練習が載っていますが、左右どちらの指も、ぎくしゃくしないでさらっとできる人とできない人がいて、そんなことはたとえ実践で使わなくてもできるような体を作るレッスンなのです。使わなくても出来るようにしておけば、必要なときに体が自然にそれを使うようになる。(M氏が右の小指をそらしていたのも本人は意識していないが体がそれを音楽表現のために必要としたということでしょう)また、左指の第1関節をそらせるのは、ビブラートの時に有効で、これは使っている人が沢山います。ビブラートの時の弦の押さえ方には、斜めに押さえたり、そらせたり、接触面積を変えたり重みを変えたりいろいろな変化がつきますが、それも普段の研究・訓練がなければ使えない。・・出来ていれば使えるけれど、出来ていないモノは使えない、これが日頃の練習の意味ですね。
初めまして。いつも楽しませていただいてます。
まむし、には悩まされていて、疲れてくると関節が反ったまま戻らず、弾けなくなります。
同じような症状の方がいらっしゃるのですね。
参考にさせていただきます。
投稿情報: こくしょう | 2014-09-15 22:04
こくしょうさん、こんにちは
「まむし」状態が同じかどうか分かりませんが、第2関節が伸びて第1関節だけ曲がって弦を抑える状態のことです。全部の指がそうなっている人を知っていますが、見るからに窮屈そうな柔軟性のない指です。そうなると、修正は無理と思えます。私の場合は、小指だけで、それも常にと言うわけではないので、何とか修正しようと思います。すべてのことには原因があり、部分的な修正ではなくもっと大事な事は何かと探求すべきですが、人により事情は様々で、一律に指の形、腕の構え、姿勢を押しつけるとどこかに無理が生じると思います。私の場合は指がそもそも短いので、小指を助けるような構えを心がければ改善すると思っています。
投稿情報: goshu | 2014-09-16 07:36
私の症状はgoshuさんと同じようです。疲労で顕著に現れ、先日の定演でも、悲愴の3楽章の後半で出てしまい、エネルギーセーブモードになってしまいました。
周りの人に聞いても一様に、なにそれ?という反応です。私の解剖学的な問題かと思っておりましたが、もしも克服できたらご報告したいとおもいます。
投稿情報: こくしょう | 2014-09-16 18:54