それからたびたび家族で訪れたものだ。やがて、再開発が終わり、駅前のビルの地下に,「つるつる亭」という名で新しい店がオープンした。そばは勿論天丼などご飯ものもあり,いつも賑わっていた。他の店は閑散としていてもここだけは繁盛していた。その当時のそばは,蕎麦つゆが少しから目で,私は,更科系の甘いつゆが好きだったので、大根おろしを少し入れるとちょうど良い位で,つゆに少し不満?があった。ところが研究熱心な方のせいか、段々味が変わってきて、ここのそばがどこよりもおいしいと感じるようになっていった。それに、偉そうな有名そば店のようなとても食事とは思えないくらい高くて少量のそばではなく,1人前はきちんと大人が食事するにふさわしい量があり、上質の国産のそば粉にこだわる割りに値段も安かった。
あることが縁になり、御殿場の国道沿いの畑の中に,民家を改装したお店を出す事になった。駅からは遠く,車でないと行けない場所であり、どうなるのか心配だったが、おいしいものはどこにあっても求めていく人がいるもので、うどんもご飯ものもなくそばメニューだけだが、あっという間に繁盛店になっていった。1年もしないうちに、開店からすぐ行列が出来、1時間以上待たなければ食べられないほどになった。午後2時過ぎてもまだまだ並んでいる。あるとき、業者からホームページを作ってはどうか、年間でいくら,月にいくら,更新するといくら、契約すればどこそこのサイトとリンクしてやる・・・といわれているがどうしたものでしょう、と相談を受けた。そんなものにお金を払うのは無駄だ、面倒だから、私が作ろうということで 作って差し上げた。勿論無料。
ホームページなんかあってもなくても作るものが本物なら、大繁盛。調理は一人でやっていて、天ぷらも注文を受けてから作るし、量も質も十分なもの。私がお気に入りの鴨せいろも、どの店でも出す定番メニューだが、この横山さんの作るものが私の基準になっていて、他の店のものは満足できない。まず、ネギはどっさり入れる、きちんと焼く、鴨はフランス料理で使っている上質のもので、けちけちしない・・ここよりおいしいものは食べたことがない。かかっている音楽はジャズ、土瓶やそばちょこなど器も独特で横山さんの見立てで、特注品である。久しぶりに行ったとき、前とそばが変わりましたね、と給仕にでた奥様に話したら、奥様から報告を聞いたらしく、厨房からわざわざ横山さんがやってきて、「分かりますか?!うれしいなぁ・・玄そばの配合を色々変えて試しているんです」・・と喜んで話してくれた。
脳に腫瘍があり、その手術が難しいもので,術後出血がありそのまま亡くなったとのこと。頑張り屋のご夫婦で、電話口で泣きながらの奥様の話を聞いていると、悔しくてならない。 私と同年齢で、まだまだこれからだった。1月には,「食べログ」から静岡県飲食店部門第1位のトロフィを贈られた。そば店として全国第11位となったとか、頑張って来たからそれが何よりと・・
ご冥福をお祈りします・・合掌
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