先日は年に1度、30年来のチェロ仲間と1泊2日の合宿? ソロあり、デュエットあり、チェロアンサンブル、ピアノトリオなど、盛りだくさんに楽しんだ後、夜、ワインを片手に、歓談の時、隣の67歳になる女性が、チェロを習い始めた時のことから、今日までのことを語り始めた。
「昔は、チェロをむんむん弾いていた気がする。あるときY先生に指をむんずと掴まれて、あなた!指がめちゃくちゃよ!と言われた。スケールを弾いてご覧なさいと言われ、ハ長調のスケールを弾いたら、あなた、スケールも弾けないのね!(これは、ピアニストのように指が1音づつ離れてしまって指並べの基本が出来ていなかったということ)・・大人になってから楽器を始めたのでソルフェージュなど音楽の基礎が出来ていなくて楽譜を見ても音が読めない、メロディが歌えない、そんな話をしたら、それでチェロを弾くなんて不可能、それで弾くなんて理解できない、と言われた、と。
多分小さい頃から音楽の訓練をした来た人からすれば、そういうのは出来て当たり前で、できないと言うことが理解できない事だろう。大人になってから楽器を始めた人は、様々なハンデと戦いながら習得していくわけだけれど、いざ、曲を弾く段階になると楽譜を読めない(頭の中で鳴らせない)ということは、ものすごく大きな障害だと思う。かくいう私も、小学校の頃は楽譜で歌うことが出来た気がするが、ギターを始めてからは、段々出来なくなったと思う。楽譜を見ても音がとれない、音程が分からない、リズムも弱い・・要するに楽器の基礎は出来ても音楽演奏の基礎は空っぽだ。
けれど、彼女は、そんな状態ではあっても少しづつ少しづつ音譜を読むようにして、段々、ごちゃごちゃ、デタラメだった頭が整理されてきて、「40代よりも50代、50代よりも60代、になって、わたし、ちょっと上手くなってきたかもしれない。」と言う。「60過ぎてから育ち盛りという感じ・・」と。なんと素晴らしい事だろう。
大人は子供と違って、直感的に習得する柔軟性はないから、頭で整理し、難関を克服していかなくてはいけない。ハイポジションの難しい音取りのところでもドソファレ・・など音名で読んで、指番号などに頼らない、そうすると暗譜しやすくなるし音程も良くなる。頭で理解することで指も正確に並ぶようになる。
彼女が、頭が整理されてくるというのはこう言うことだろう。
お断りしておくが、彼女の演奏も音色も素晴らしいものだ。先日はラフマニノフ、その前はフランクのソナタを弾いたけれど、お世辞でなく立派な音、深々と柔らかく鳴る低音は比類がないし、高音の音程もしっかりしている。どんな曲を弾くかでなくどの様に弾くかが大切。あんなにチェロらしい音を出すアマチュアは数えるほどしか知らない。しかし、そうするために、一歩づつ地道な努力をしてきた事が分かる。最初から上手で器用にこなす才能があったわけではない 。
大人になってからチェロを始めた人を、沢山知っているが、というか知り合いの殆どの人がそうだ。なかで、上手にならない人には特徴がある。先ず、練習時間が殆どない人、練習時間は正直だ。お喋りが多い人。お喋りな人は人の言うことを真摯に受け止めない傾向があるようだ。馬の耳に念仏。また、妙なプライドのある人。失敗を恐れ、出来ない言い訳ばかりして、まっすぐに素朴に探求していくことが出来ないようだ。子供の時からやっていた人とは違うとやたらに言いたがる人がいるけど、あるいは20代で始めれば違うとか、要するに自分は歳をとって始めたから下手くそで仕方ない、と言っているわけだが、自分の現状を誰かのせい、何かのせいにしないで、もうそんな下らない事を言うのは一切やめてひたすらチェロに向き合うようにならないだろうか。歳をとるに従って、魅力的な生き方をする人とそうでない人との差は、ほんの僅かの心の姿勢だと思う。
色んな事でごちゃごちゃになっていて子供のように喜びや探究心に溢れて楽器を練習する事ができない大人は、少し、努力して、意識して、頭を整理したり、精神的に自分を見つめ直す必要があるのではないだろうか。楽器が上手になることは勿論だが、苦労する過程で、人間も磨かれていくと言う副産物があるような気がする、だとしたら、何と素晴らしい事だろう。チェロが上手に弾けても大したことじゃないけれど、それより素晴らしい人間性があってその人がチェロも上手に弾くと言う方が凄く魅力的。
うう・・・耳が痛い〜〜。まだまだイイワケいっぱいの私だわ。。しかしながら、チェロを学ぶ過程で「謙虚が大事」ということはたしかに気づけた気がいたします。奥が深いですね!
投稿情報: まかべ | 2013-07-11 20:47
いえいえ、60過ぎても進歩できるって、希望じゃないでしょうか。そっちが大事な事だと思います。スポーツじゃそういうことはないでしょう。難曲を制覇することが進歩じゃない、音楽的にまっとうになり深みを増す、納得が出来てくる、味わいが増す・・すごく豊かな時間を過ごせるようになる。それは簡単ではないけどやれば出来る。
投稿情報: goshu | 2013-07-12 09:57
追加ですが、彼女の話はとても説得力があり感銘を受けたのですが、やっぱり、練習するにしても機械的ではなくて感動を持って練習したいな、いつも心を震わせているというか、音楽出来る喜びを持って練習したいなと思いました。それは、バイオリニストの若林暢先生が生徒にいつも注意する事だそうですが、喜びを持って楽器を練習する事が一番大切だと。そのためには、何を練習しているのか何を目指しているのかが分かっていなくてはいけないのだろうし、1つ1つの音に神経を注いで、生きた音を心がける事だろう。もっともっと注意して自分の音を聴き、悪いところだけでなく良いところを見逃さないように、前向きに取り組みたい。
投稿情報: goshu | 2013-07-12 19:27